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くどうれいんさんが初の小説作品集 手触りある体験をヒントに、人間を書く

「スノードームの捨てかた」表紙

「スノードームの捨てかた」表紙

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 盛岡在住の作家・くどうれいんさんの小説作品集「スノードームの捨てかた」が5月29日、講談社から刊行された。

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 月刊文芸誌「群像」に掲載された6つの短編小説から成る同書は、くどうさんにとって初の小説作品集。「これまでで一番チャレンジして、刊行に当たって一番プレッシャーを感じる本」と話すくどうさんは、2021年に発表した東日本大震災が題材の中編小説「氷柱(つらら)の声」を執筆した後、なかなか小説を書けない日々が続いたという。「次はどんなテーマを書けばいいんだろうという悩みや、さまざまな評価を受けた後の恐れ、もっとうまくなりたいという焦りが、小説を書くしんどさにつながっていたと思う」と振り返る。

 その後、短編の執筆と掲載を定期的に続けることで「小説を書きたい」「書くのが楽しい」という感覚を取り戻していったという。「楽しくて書きたいと思えるようになるまで支えてくれた皆さんがいるので、私一人で書き上げた作品ではないと感じている。この作品集を出すまでの思考と時間の積み重ねが詰まっている」とも。

 作品は、高校時代の友人3人が集まり公園で穴を掘るという表題作「スノードームの捨てかた」をはじめ、指輪の処分に迷う女性が主人公の「川はおぼえている」、結婚前の男女の少し不穏なやりとりを描いた「湯気」など、さまざまな背景を持つ人々の日常と心の機微を切り取っている。「人間にはほころびがあると魅力的」という考えから、登場人物たちもさまざまなほころびや矛盾、ぶれている部分を抱える。

 小説を書く面白さについて「自分自身と全く違う人間を書けるのが面白い」とくどうさん。「一方で、作品の題材や会話は、必ず過去の経験や友人から聞いた話など手触りのある体験をヒントにして、それをずらして書いている」と話す。「スノードームの捨てかた」は「女性3人が穴を掘る話」というプロットに、昔から持っているスノードームをどうやって捨てたらいいか考えた自身の経験を組み合わせた。これまで多くのエッセーを書いてきた経験が小説にも表れ、五感の描写をふんだんに取り入れることで、読者の中の「小説のような経験をしたことはないのに、なぜか知っている」という感覚をくすぐっているという。

 「誰もが誰かに見いだされる可能性がある時代。人生の主人公は自分自身だから、『あなたも主人公であることをさぼらないでね』という気持ちが隠し味の一冊」とくどうさん。「もっと小説がうまくなりたい。まずはいったん、ここまでの成果を作品集という形で見てもらえれば」と笑顔を見せる。

 四六判、192ページ。価格は1,705円。

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