盛岡てがみ館(中ノ橋通1)で現在、第66回企画展・野村胡堂生誕140年記念「野村胡堂のてがみ」が開かれている。
作家・野村胡堂は1882(明治15)年に現在の紫波町に生まれ、「銭形平次捕物控(とりものひかえ)」などの代表作があるほか、「あらえびす」のペンネームを使った音楽論評家、レコードコレクターとしても知られている。
同館では、石川啄木の研究をしていた盛岡出身の文芸研究家・吉田孤羊へ宛てた書簡を中心に、胡堂が送った手紙を収蔵していたことから、生誕140年に合わせて展示を企画。市内の「先人記念館」「岩手県立図書館」、紫波町の「野村胡堂・あらえびす記念館」から提供を受けた資料と共に、胡堂の手紙や原稿、書籍、写真パネルなどを展示する。
展示は胡堂の幼少期から亡くなるまでを関連する資料と共に紹介。幼い頃のエピソードを取り上げる部分では、岩手へ帰省した後に書いた手紙や同級生の名前が出てくる手紙が並ぶ。新聞社で働いていた時代は、横溝正史からの執筆依頼の書簡や、「も一度記者になり度(た)い」というタイトルの直筆原稿を紹介。この頃に孤羊へ宛てた手紙の中には、孤羊の著書を読んで感動したことや、新聞で本を紹介したいということが書かれている。
担当学芸員の山崎円さんは「孤羊へ本の感想を伝えた手紙は、冒頭で『急いで書いています』というような断りを入れている割に、便箋12枚分長い内容になっている。便箋といっても新聞社の原稿用紙を使っているので、本当に急いで書いたのだろうなということも推測できる」と話す。
「銭形平次捕物控」の発表後の手紙には子どものことや、知人の体調を気遣う内容が書かれている。胡堂自身も目を悪くしたことから、手紙の文末に「ご判読願いあげます」と添えられているものもある。「手紙からは書き手の人柄が伝わる。ちょっとした文章からも胡堂の人柄が見えてくると思う」と山崎さん。
孤羊宛ての手紙の中には、「啄木の伝記を完成させろ」と励ます言葉も出てくる。山崎さんは「『あなたを置いてやり遂げる人はいない』『何が何でも完成させろ』と孤羊に向けた言葉から、心から期待を込めていることも分かる。展示は胡堂がどんな人かという話からスタートしているので、数々の手紙から彼の人柄を読み取って楽しんでもらいたい」と呼びかける。
開館時間は9時~18時(最終入場は17時30分)。入館料は一般=200円、高校生100円。中学生以下と盛岡市に住所を有する65歳以上、障がい者手帳を持つ人と付き添い介護者は無料。第2火曜休館。来年2月13日まで。