盛岡駅ビル「フェザン」（盛岡駅前通）本館1階フェザンパティオで2月17日、岩手県出身の小説家・柚月裕子さんによる小説「風に立つ」（中央公論新社）の刊行を記念したトークショーとサイン会が開催される。

　同作品は盛岡の南部鉄器工房を舞台にした家族小説。問題を起こし家庭裁判所に送られてきた少年を一定期間預かる制度「補導委託」の引き受けを申し出た父・孝雄と、南部鉄器職人としては一目置いているが良い親とは言えなかった父の思いも寄らない行動に戸惑い、納得がいかないまま少年を受け入れることになった息子・悟、補導委託でやってきた少年・春斗が、共に工房で働き、同じ家で暮らすうちに変化していく心模様や家族の交流を描く物語となっている。

　作中に出てくる南部鉄器工房は市内の老舗工房「釜定」がモチーフになっているという。同工房には柚月さんが現地取材に訪れ、工房内の様子が細かく描写されている。盛岡の景色も登場するほか、物語の重要なポイントとしてチャグチャグ馬コ（うまっこ）が出てくる。

　トークショーとサイン会を主催する「さわや書店」は、岩手出身の作家として柚月さんを応援してきた縁がある。同店の書店員がその年に読んだ作品からお薦めの作品を選ぶ「さわベス2017」の書籍部門1位に柚月さんの「慈雨」（集英社）を選出したこともあった。

　さわや書店の栗澤順一さんは「柚月さんと言えば、重厚な警察小説やミステリー、推理小説をイメージする読者も多いと思うが、『風に立つ』は家族小説。盛岡の街と伝統を舞台にした優しい物語でもあるが、補導委託というテーマは柚月さんならではだと感じた」と話す。

　通常、同店が主催するトークショーやサイン会などでは、参加希望者へ整理券を配布しているが、開催前に整理券をなくしてしまう人も少なくない。今回はイベント開催が刊行から1カ月後になるため、整理券の紛失防止策を考える中、整理券を兼ねたオリジナルブックカバーを巻くことを考案した。ブックカバーにはイベントの告知と、物語に登場するチャグチャグ馬コのイラストが描かれている。サイン会は同店で購入した書籍が対象となるため、整理券ではなく、カバー付きの本を持参してもらう形にした。

　栗澤さんは「盛岡の風景にマッチする温かみを味わってほしい作品。フェザンでの柚月さんのトークショーは、『慈雨』がさわベスに入った時以来の開催なので、物語を楽しみながら当日を待っていてほしい」と呼びかける。

　四六判、416ページ。価格は1,980円。トークショー・サイン会に参加するためのオリジナルブックカバーは、さわや書店各店での購入した本に付属する。