レンタルスペース「Toast」(盛岡市内丸)で6月10日、岩渕俊彦さんの個展「“A rose is a rose” 岩渕俊彦 小品展」が始まった。
岩渕さんは市内上ノ橋町に「紙町銅版画工房」を開いている銅版画家。2011(平成23)年からは「もりおか中津川まち歩きスタンプラリー(紺スタ)」のスタンプ制作を担当し、かわいらしいデザインで人気を集める。昨年は疫病を退ける言い伝えがある妖怪「アマビエ」の消しゴムはんこを制作し話題を呼んだ。
同展では、盛岡市在住の歌人・工藤玲音(れいん)さんによる連作短歌「薔薇(ばら)泥棒」より3首をモチーフにした3作品のほか新作2点を含めた全10作品を展示する。連作短歌の題材となっているのは、昨年6月に発生した「岩手銀行赤レンガ館」の敷地内に植えられていたバラの花の部分だけが何者かに切り取られた事件。
当時、事件について知り「気味が悪いな」と感じていた岩渕さん。「この時、ツイッターで見た工藤さんのつぶやきが印象的だった。バラを持ち去る様子を想像したような内容だったと記憶している。私を含めて他の人は不安や疑問、怒りの気持ちをツイートしていたのに、彼女は独特の視点があって気になっていた」と振り返る。
その後、工藤さんは雑誌「装苑(そうえん)」の特集で10首の連作短歌「薔薇泥棒」を発表。同じタイミングで岩渕さんの元へ交流がある東京のギャラリーから「短歌をモチーフにした作品展を開くので参加しないか」と誘いがあった。加えて同ギャラリーのスタッフが工藤さんのファンということもあり、岩渕さんは「『薔薇泥棒』の短歌で作品作りに挑戦したい」と思ったという。
「薔薇泥棒」をモチーフにした版画作品「“A rose is a rose”」は、連作の中からシーンを描きやすい短歌を選び、「それからは薔薇を盗めぬ我と思う煉瓦(れんが)の横を通り過ぎつつ」を含めた3首を銅版画で表現。短歌は主役として凸版刷りし、銅版画はあくまで背景画であることにこだわった。短歌の中に「薔薇」という単語が何度も出てくること、犯人や街の人、バラなどさまざまな視点で詠まれていることから、銅版画の中にはバラの花を描かず、「岩手銀行赤レンガ館」の建物や周辺の景色をさまざまな角度で描き出した。
岩渕さんは「『“A rose is a rose”』で描いた赤レンガ館周辺の風景は紺スタでも親しみのあるもの。いつか銅版画で作りたいという気持ちがあったので、実現できてよかった。展示作品はどれも雰囲気が異なるので、見比べて銅版画の面白さも味わってもらいたい」と呼び掛ける。
開場時間は11時~19時。火曜・水曜定休。入場無料14日・20日は岩渕さんが在廊する予定。今月20日まで。