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盛岡の歌人・工藤玲音さん初の歌集 日々の思い切り取り、啄木へハイタッチ

「水中で口笛」表紙

「水中で口笛」表紙

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 盛岡市在住の歌人・工藤玲音(れいん)さんが4月13日、初めての歌集「水中で口笛」を刊行した。

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 これまで短歌をはじめ、俳句やエッセー、小説などを通じて表現を続け、エッセー集も刊行してきた工藤さん。歌集については「一生に一度とっておきのものを作りたい」と思っていた。ところが、自身が26歳を迎える前、同郷の歌人・石川啄木が26歳で亡くなったことに気付き、「啄木が死ぬ26歳までに歌集を出すこと」を目標に急いで歌集の準備を始めたという。工藤さんは「勝負を仕掛けたというか、啄木に勝ちたいという気持ちがあった」と話し、歌集は啄木の命日4月13日に合わせて発売となった。

 歌集には短歌を始めた高校時代から現在に至るまで、10代の頃の作品を中心に316首を収める。タイトルの「水中で口笛」は、10代から20代にかけて感じていた「水中にいるような息苦しさ」と「その苦しさを口笛を吹いて平気なふりをしてごまかしていた自分」を表現し、表題歌の「水中では懺悔(ざんげ)も口笛もあぶく やまめのようにきみはふりむく」となっている。

 日常生活を切り取ったような短歌が多い一方、啄木を題材にした歌もあり、「啄木を殴りたい日」と題した連作の中にも工藤さんの啄木への思いが表れている。後書きでは「渋民出身のわたしはいままでずいぶんと啄木に喩(たと)えられ、比べられてきたのだから」とも語っている。

 工藤さんは「岩手で文芸に取り組むと、数々の先人たちに例えられ、比べられることがある。例えば短歌を作れば『将来は啄木のようになりたいですか?』とか。私にとって啄木は地元の有名人で身近な存在。私は私なのに、いつまで彼と比べられたり、例えられたりしなくちゃいけないのかという気持ちを抱えていた。でも、社会人になって働き、同い年になり、歌集を作るようになって、同じ目線に立ったからこそ分かる啄木の姿もあった。改めてすごい人だと感じた」と振り返る。今回の歌集も啄木と張り合うつもりで作ったものが、「私もここまできたよ、おつかれさま」とハイタッチするようなものが完成したという。

 歌集を作るに当たり、これまで詠んだ短歌を集めたところ700首ほどとなり、そこから高校時代からあこがれていた歌人・小島なおさんの協力の下、収録する短歌を選定した。中には作り直したものや、新たに加えたものもある。工藤さんにとっても初めての歌集だが、この歌集が初めて手に取る歌集となる人へ向けて「短歌表現の面白さを感じ、もっと知ってもらおう」という思いも込め作品を選んだ。

 工藤さんは「歌集を出すことは墓標を立てることだと思う。10代の頃の鬱屈(うっくつ)やけんかっ早さ、どうしようもない自分を成仏させることができた。すがすがしい気持ちで次に進めるような感じ。短歌はディテールがない分、自分の暮らしにも当てはめやすい側面がある。誰かの暮らしに寄り添う歌があればうれしい」と話す。

 歌集は四六判上製、208ページ。1,870円。

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