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岩手大学付属動物病院に「動物園水族館動物診療科」 希少課で実績重ねる

ゴマフアザラシのエコー検査の様子

ゴマフアザラシのエコー検査の様子

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 岩手大学農学部付属動物病院(盛岡市上田)の「動物園水族館動物診療科」は、希少動物への診療数を重ねている。

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 同科は今年4月22日に全国で初めて開設。主に動物園・水族館で飼育展示されている野生種の動物や、個人・動物展示施設で飼育されている馬などの家畜種を診療対象とする専門診療科。動物園や水族館などの施設ではスタッフや獣医師が飼育動物の健康管理や環境保全を行っているが、専門的な知識や技術、情報が不足しているため、適切な治療や健康管理が行えない状況が多いという。専属獣医師がいない施設、施設や資金が足りない施設も少なくない。

 犬や猫などのペット医療に比べ、日本の動物園水族館動物医療は発展途上。課題が多い現状を改善し、動物園水族館動物医療の向上と動物福祉に配慮した健康管理、適切な診断医療技術の開発を目指し、専門診療科が創設された。

 同大農学部共同獣医学科小動物外科学研究室の福井大祐准教授は「動物園や水族館などで飼育している動物たちを専門で診療する病院や診療科がないということは一般的に知られていない。このギャップを埋めることも、今の環境を変えるために大切なことだと感じている」と話し、「多くの場合、施設にいる獣医師は1人か2人ほどで、少人数で診るには限界がある。その現状を複数の獣医師で支え、命を守り切る流れをつくりたい」とも。

 創設以来、全国の施設から「こういう症状があるがどうすればいいか」といった問い合わせが相次ぐ。診療実績としては、「盛岡市動物公園」のニホンイヌワシの造影CT検査と腫瘤摘出手術、「男鹿水族館GAO」のゴマフアザラシの造影CT検査とエコー検査などの受け入れ成果がある。診療受け入れや問い合わせには、動物病院に勤務する獣医師がそれぞれの専門分野に合わせてチーム医療で対応していく。

 同科では人材育成にも取り組み、これまでの診療でも各施設の獣医師やスタッフが加わっている。動物園水族館動物に対する獣医療を学べる場所も少なく、学生の受け入れ先としても機能している。

 山崎真大病院長は「動物園や水族館の獣医師になりたいという学生や興味を持つ学生はいるが、専門的に学べる場所がなく、就職先も少ない。そのため、いざ就職しても挫折してしまうパターンが多い。人材を育てること、経験を積んでもらうこと、得た知識を広めてもらうことも、命を守る一つのサイクルになる」と話す。

 今後は東北地方を中心に、動物園・水族館などの関連機関と協働し、地球上の貴重な飼育個体群の種の保存や環境保全にも貢献していくという。福井准教授は「持続可能な獣医療を提供していくためには多くの人の理解も必要。自分が住む地域に動物園や水族館があることは大きな財産。そこに動物たちがいることを当たり前だと思わず、動物たちの医療の現状にも目を向けてもらいたい」と呼び掛ける。

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