盛岡市在住の脚本家・道又力さんによる、「文春文士劇」の記録をまとめた書籍「作家がスターだった時代 文春文士劇の45年」が11月10日に発売された。
文士劇は作家や記者などの文学者を中心に、俳優以外の人々が舞台に立って芝居をするアマチュア演劇の一種。明治時代半ばに始まったとされ、130年を超える歴史を持つ。盛岡では1949(昭和24)年に「盛岡文士劇」が始まり、一時中断するも、1995(平成7)年に復活。毎年継続して行う日本唯一の文士劇で、市民からは冬の風物詩として親しまれ、チケットは毎回完売する人気が続く。同書著者の道又さんは長らく盛岡文士劇の脚本家を務めている。
「文春文士劇」は文芸春秋社が主催し、1934(昭和9)年に始まり、戦争で一時中断したが、1952(昭和27)年~1978(昭和53)年は毎年開催された。三島由紀夫や石原慎太郎、松本清張など当時の流行作家が出演し昭和期の文士劇として高い人気を誇ったが、その記録をまとめた書籍はこれまでなかったという。
「誰も本にしなかったのは『文士劇はしょせん、作家の道楽』と軽んじられていたせいかもしれない」と道又さん。「終了から半世紀がたち、きちんと記録に残さないと忘れ去られてしまうと思い、本を書いた」と話す。
道又さん自身も文春文士劇を見たことがないため、執筆に当たって、出演した作家の著書にある記録や、当時の新聞、雑誌の記事などを洗い出し、上演中の様子や観客の反応、作家たちの舞台裏での様子、稽古中の様子などを文章で再現。文春文士劇の始まりから復活、隆盛期、終わりまでの歴史をたどる。文芸春秋が撮影したものを中心に写真も多く掲載する。
道又さんは「昭和文学が好きな人なら、たまらない一冊になっていると思う。あの有名作家たちが、あんなことをやっていたなんて、こんなやりとりをしていたなんて、と作家たちの舞台裏の素顔と、タイトルの通り、作家がスターだった昭和期の雰囲気を楽しんでもらいたい」と呼びかける。
四六判、244ページ。価格は2,530円。