スペイン・インフルエンザ(通称スペイン風邪)に関する同時代資料を紹介するトピック展「患者史を読む」が現在、岩手県立博物館(盛岡市上田)の「いわて文化史展示室」で行われている。
同館では2020年から、新型コロナウイルス感染症関連資料の収集と展示を開始。常設展示の一部として「いわて文化史展示室」にコーナーを設けて集まった資料を紹介してきた。その一環として、新型コロナ禍の中で注目を集めた、1918(大正7)年~1920(大正9)年にかけて世界的に流行した「スペイン・インフルエンザ」に関する資料を展示する。
スペイン・インフルエンザの流行当時の様子を伝える資料は、一部の新聞記事や行政文書に限られているといい、同館でも収蔵資料が少ない。今回は流行期に花巻尋常高等小学校の校長を務めていた、故・杉村松之助さんの遺族から借り受けた児童の手紙や作文を公開し、患者やその家族の様子を伝える。
担当学芸員の目時和哉さんは「半年ほどで岩手県民の半数が感染するほどの猛威を振るったにもかかわらず、当時の手記や記録は少ない。流行期を経験した人の手記は貴重な資料である」と話す。
手紙は宮城県の小牛田に転校した児童から届いたもので、「此(こ)のころのはやりかぜでそちらはどうですか」「私は一番かるい分でとこにねたのは二日です」など自身の感染について書かれているほか、児童や先生の死、小牛田での流行の様子についても伝えている。
作文は児童による作文集に収められていたもので、「かなしかったこと」と題し、1919(大正8)年4月にスペイン・インフルエンザで兄が亡くなったことについて書いている。作文の中では、当初は普通の風邪と診断されたこと、兄のことが心配で学校が終わったらすぐに家に帰っていたこと、家族が時には寝ずに看病していたこと、25歳という若さで亡くなったことが記され、「男は二十五さいがわるいといふからしんだからあきらめようと家の人はいって居ます」と締めくくられている。
「作文の最後の一文から、どうにか兄の死を受け止めようとする家族の気持ちが伝わる」と目時さん。現代の患者史として自身が新型コロナウイルスに感染した際に処方された薬の記録なども展示し、新型コロナウイルス感染所の関連資料も継続して収集している。「決して珍しいものではないが、これも患者史。スペイン・インフルエンザの資料は少ないが、私たちが今直面していることを残しておけば未来では資料になる。感染症の記憶の風化も防げれば」と話す。
開館時間は9時30分~16時30分(入館は16時まで)。入館料は、一般=330円、学生=150円、高校生以下無料。月曜休館(休日の場合は翌平日)。2月2日まで。