岩手出身・在住のビジュアルアーティスト・Atsushigraph(アツシグラフ)さんの個展「Inner Silence」が、11月2日から「Cyg(シグ) art gallery」(盛岡市菜園)内の「Cyg Rental Wall」で開かれる。
Atsushigraphさんは2010(平成22)年に統合失調症と診断された後、療養期間中に独学によるデジタルコラージュの制作を開始。現在は自身のウェブサイト上で作品の制作・発表・流通を行っている。
2019年11月に開催した個展から3年が経過し、同年末から描いた作品は80点以上になる。これらの作品をウェブサイトだけではなく、実物の作品として見てもらう機会をつくろうと探っていたという。Atsushigraphさんは「コロナ禍やウクライナ侵攻といった歴史に残るだろう事柄に心が揺さぶられることが増える中、時代の不穏な空気を吸い込みながらも、大切にしたいことを腹を据えて描いた作品も多くあったので、今の時期に展示すべきと考えていた」と話す。
会場を探す中、盛岡市内のギャラリー「Cyg art gallery」が今年の春に、東北でのクリエーティブな活動とその発信を目的としたレンタルウオールを始めたことを知ったという。「もともとCygのような場所で展示ができたらと思っていたところ、いいタイミングに恵まれた」とAtsushigraphさん。春から準備を重ね、盛岡では3年ぶり10回目の個展を開く。
展示作品は7点。3DCGなどを使って描かれ、現実の風景を写真で取り込みながら、想像の事物もまざったハイブリッドな作風となっている。個展では作品をジークレープリントやキャンバスプリントに製作し、展示・販売を行う。同展のテーマは平穏や静寂。平穏を取り戻す役割を作品に期待し、生活のそばにあってほしいと願う静けさと柔和な印象のイメージを集めた。壁の余白を生かし、一つ一つの作品にゆっくりと向き合えるような展示構成を予定している。
個展タイトルの「Inner Silence」には「内なる静寂」という意味を込め、建築家ルイス・バラガンの言葉からインスピレーションを受けたという。「バラガンは『静けさは人間の苦悩や恐れを癒やす、真の薬である』という言葉を残している。私はその薬を絵で表現したい」とAtsushigraphさん。「絵の中には矮小化された人間や生命の姿がささやかに描かれている。彼らが集い、祈り、気付き、たたずむ姿に自分自身を重ねてみてほしい。それぞれの絵が携える平穏と尊厳に思いを巡らせて」と呼びかける。
開催時間は10時~19時。入場無料。11月6日まで。