羊毛を使った手紡ぎ・手織りの毛織物「ホームスパン」を製造販売する「みちのくあかね会」(名須川町)が、社屋の老朽化に伴い移転する。
同社は1958(昭和33)年、戦争で家族を失った女性が働く場「婦人共同作業所」として発足。作業所で製造したホームスパンを販売する会社として1962(昭和37)年に「みちのくあかね会」が設立された。設立60周年を迎える現在まで、製造工程や会社運営も全て女性だけで行われている。
社屋として使用しているのは盛岡市が所有する築80年以上の木造の建物。建物の老朽化に伴い、昨年9月末に賃貸契約が延長できないことが決まった。同じ場所での改築やリノベーションも検討したが、さまざまな条件から「移転がベストである」と決断したという。
同社の渡辺未央さんは「急きょ決まったようなところもあり、行く先も決まっていない、移転のための資金もない、正直どうしようという不安もあった」と話す。歴史ある建物も含め、同社のホームスパンを愛する人も多い。渡辺さんは「『ここは時が止まったようだ』と表現する人もいる。確かにこれまで良くも悪くも昭和的な運営を続けてきた。悩みはしたが一つの機会だと思って、今の時代に合う形に生まれ変わり、伝統をつないでいきたい」とも。
移転先は市内大慈寺町にある酒造会社「あさ開」の直営店「地酒物産館」の隣接スペース。以前は飲食店として使われていたため、照明の増設など最小限の改築が必要となる。加えて、現在の工房から織り機や、毛をほぐすためのカード機など大型の機械を移設するために専門業者による運搬や、移設後の調整作業もあるため費用がかかる。そこで移転にかかる費用などを募るため、クラウドファンディングに初挑戦することを思い立った。
支援は一口1,000円からで、金額によってネックウエアなどの返礼品を用意する。集まった資金は移転資金、改装資金、運転資金として使われる。同時に銀行振り込みによる寄付も受け付け、振込先は同社のホームページに掲載する。
新しい社屋にはショップスペースを設け、気軽に製品を見ることができる環境も整う。渡辺さんは「作り手と使い手の距離が縮まるとうれしい。新天地でもホームスパンを盛り上げ、手と心を尽くして作り続け、歴史を引き継いでいきたい。少しでも協力してもらえれば」と呼びかける。
クラウドファンディングは今月30日まで。