漆の精製加工、漆塗り製品の販売などを行う「浄法寺漆産業」(盛岡市北飯岡)が、「漆染めマスク」の販売を行っている。
「漆染め」はウルシの木をチップして染色する草木染の方法の一つ。漆の採取を終えたウルシの木はまきなどになりほとんど有効活用されずにいるという。さまざまな活用法が考えられているが、漆染めの材料にすることで無駄なく使用できる。
同社社長の松沢卓生さんは「漆染め製品はハンカチやスカーフなどが多い。新型コロナウイルス感染症の影響を受けてマスクの需要が高まる中、同じ布製品であれば布マスクを漆染めにしてみたらどうだろうかと思い付いた」と話す。
「漆染めマスク」を企画したもう一つの背景には漆が持つ抗菌性がある。漆器には抗菌性が認められていることから、「ウルシの木を材料にする染め物自体にも抗菌性があるのではないか」と着目。実際に漆染めマスクの抗菌性試験を行った。
「一般社団法人繊維評価技術協議会」による「SEKマーク繊維製品認証基準」では、「抗菌防臭加工」の基準が「抗菌活性値2.2以上とされている。黄色ぶどう球菌に対する試験を行ったところ、「漆染めマスク」は洗濯0回の状態で抗菌活性値3.7、洗濯10回の状態で5.7という結果となり、強い抗菌性が認められている。この結果には松沢さんも「予想以上で驚いた」という。
マスクは耳に掛けるゴムひもがついたニットタイプと、縫い目がなく耳に掛ける部分が一体となった「ホールガーメントタイプ」の2種類で、ニットタイプはフリーサイズ、ホールガーメントタイプはMサイズとLサイズを展開する。材料には浄法寺産のウルシの木を使い、東京の染色家の協力を得て染色を行う。ウルシの木の黄色い芯材の部分を乾燥させてチップにするため、漆液は含まれず肌がかぶれる恐れはない。色はイエローやカーキー、ダークブラウンなど自然な色合いのものをそろえた。
6月中の販売を予定し、店頭販売を行うほかインターネットを通じて予約も受け付けている。製品についてSNSなどで情報発信を行ったところ、抗菌性の高さへの驚きやまとめ買いを検討する声などが集まり好評を得ている。県外や海外に向けた販売についても検討を進めている。
「漆に抗菌性があること、漆器以外の使い方があることはあまり知られていない。このマスクがそれを知ってもらうきっかけになればうれしい。漆染めの抗菌性については他の物にも生かせるのではないか」と松沢さん。「岩手発の漆染めマスクを全国の皆さんに使ってもらいたい。少しでも役立つツールになれれば」と呼び掛ける。
価格はニットタイプが2,300円、ホールガーメントタイプが2,400円。ネット販売のほか、上米内駅舎内「上米内漆工房」、いわて県民情報交流センター「アイーナ」内「いわてヒューマンギャラリー」でも取り扱い予定。