盛岡発の「文庫X」に影響を受けて生まれた楽曲「文庫Xの歌」を歌うシンガー・ソングライターの橋爪ももさんが10月25日にメジャーデビューする。
「文庫X」は「さわや書店フェザン店」の書店員が発案したもので、文庫本全体を書店員のメッセージが書かれたカバーで覆い、内容が分からない状態で販売された文庫本。同店がツイッターなどを通じて情報発信を行ったところ多くの反響があり、全国600店舗以上で販売、発行部数は18万部を超えるなど異例の売れ行きを見せ、昨年12月にジャーナリストの清水潔さんによるノンフィクション作品「殺人犯はそこにいる」(新潮文庫)であることを明かした。
橋爪さんは「殺人犯はそこにいる」を先に手に取り、作品を読み終えた後に抱えた気持ちを整理する意味で楽曲を作り始めた。その後、「文庫X」の状態で販売されている同作品に出合い、カバーに書かれた書店員のメッセージに感銘を受け、制作した楽曲のうち2曲をCDにし「さわや書店フェザン店」宛に送ったという。
CDを受け取った同店から「この曲を店内で販売したい」と連絡があったが、本の内容が実際にあった事件を取り上げたものであること、自分の心を整理するために作った曲であることなどという理由で一度辞退。同店が説得を重ね名前を伏せ「歌手X」が作った「文庫Xの歌」として同店のみで販売、300枚を超える売り上げとなった。
橋爪さんは「文庫Xを見つけたのは、さわや書店へ送った2曲を書き上げた頃のこと。一つの作品をどうにか世に広めたいという気持ちと工夫が詰まっているカバーを見て感動した。一人の歌手として、作品を見てもらうこと、届けることの大変さを理解しているつもりなので、いろいろ思うことがあり、感謝の気持ちを込めて手紙とCDを送った」と話し、「歌手Xとして数カ月間活動したが、とにかく不安な毎日だった。私の活動拠点は東京なので、秘密にしている罪悪感も少しだけあった」と振り返る。
9月に岩手県内で行われたイベントで「歌手X」の正体が自分であることを明かし、メジャーデビューを発表。デビューシングルには「文庫Xの歌」として販売されていた「願い」「私の涙で咲いた花」2曲のほか、作品を読み終え最初に作ったという「小さな声」の3曲が入る。
CDジャケットは「文庫X」の発案者・長江貴士さんのメッセージが書かれた「文庫X」風のデザイン。長江さんは「曲が送られてきたときは単純に驚いた。文庫Xの歌を聞いて本を読んだという人もいたと聞いている。もともと文庫Xは『この本をどうしても多くの人に読んでもらいたい』という思いで始めたもの。歌になることで、その思いがこれからも続いていくのではと思うとうれしい」と話す。
橋爪さんは「前向きな曲とは言い難い楽曲ばかりだが、悲しんでいる人や後悔している人に寄り添える曲になればと思いを込めた。この曲を聞いてほしいと強く思うようになったのは、背中を押してくれた岩手の皆さんのおかげ。これからも多くの人に歌を届けるように頑張りたい」と意気込む。
価格は1,200円。全国のCDショップなどで取り扱う。