盛岡市の指定保存建造物に指定されている「武田邸」(盛岡市長田町)の一般公開が今年5月から始まり、市民の注目を集めている。月2回の公開日には1日に100人を超える見物客が訪れるという。
主にヒバや過ぎを材料とした木造2階建ての同邸は、600坪の池泉築山回遊式庭園庭と合わせると800坪になる豪邸。板張りの塀や植栽に囲まれていることから、閑静な住宅街にありながら異彩を放つ存在。実際に住人が住んでいることもあり、これまで建造物の内部が公になることはなかったが、昨年12月に持ち主の武田榮枝さんが建物と敷地を盛岡市に寄贈したことから、一般に公開されることになった。
江戸時代から時の名士らによって受け継がれてきた同邸が榮枝さんの父・武田好章さん(故人)の手に渡ったのは戦前の事。鳥取県の出身で、後に土木建築の仕事で財を築いた好章さんが、建物の材料や庭石、庭木を集めるなどして、庭を含めた建物は1950年(昭和25年)に完成し、現在に至る。現存する建物の築年数は57年ほどだが、戦前の盛岡の職人の手仕事が残る建物として、1991年(平成3年)に市の保存建造物に指定された。江戸末期の設計とされる庭園は1972年(昭和47年)に保存建造物に指定されている。
今も建物に住む榮枝さんは「この辺りは一帯が田んぼで、住所も仁王田圃と呼ばれていた。周囲に遮る物がなかったころは、家の2階からたたら山(岩山)から月が昇るのが見えたもの。そんな時は、父の友人が集まって庭でお酒を飲んでいたのを覚えている」と当時を懐かしむ。「市に寄贈したのは父の遺志。鳥取生まれの父が盛岡に恩返しをしたかったのでしょう」とも。
一般に公開されるのは回遊式庭園のみ。公開日は5〜11月の毎月第2・第4土曜日、時間は13時〜16時。観覧無料。駐車場はない。