盛岡市の書店「さわや書店」の店員が、その年に読んだ作品からお薦め本を選ぶ「さわベス2017」の書籍部門第1位に岩手県出身の作家、柚月裕子さんの「慈雨」(集英社)が選ばれた。
「さわベス」は2004年から始まり、今年で13回目を迎える。昨年12月から今年1月までに発売された本を対象とし、その中から書店員らが「読んで面白かった本」を出し合う選定会を実施。「今、最も応援したい1冊」を書籍部門・文庫部門の2つに分けてランキング形式で発表する。各部門で1位になった作品は来年1年間かけて同店全店で応援していく。
柚月さんは「『柚月さん、吉報です!』と知らされた時には驚きと喜びでいっぱいになった。書店員は読者との距離が一番近い存在。岩手の書店員の皆さんが数ある本の中から選んでくれたことがうれしい。地元の皆さんに認めてもらえたのかなと思うと胸がいっぱいになる」と話す。
「慈雨」は「人間の再生」をテーマにしたミステリー作品。定年退職した元刑事の主人公が四国を遍路巡りする中で、主人公の悔恨となっている事件に似た幼児殺害事件が起き、それに関わりながら2つの事件の真相に迫っていく物語。題名にも雨の字が使われている通り、全編を通して雨の様子が印象的に描かれている。
柚月さんは物語について「『生き直すこと』が一つの大きなテーマ。後悔や迷いを抱く人間が自分の過去とどう決着をつけて前に進むか、人間の強さや葛藤というところを書いた。違う年代の人物が出てくるので、誰に感情移入するかで物語の捉え方も大きく違ってくると思う。読者の皆さんが手に取った瞬間から、この物語は読者のもの。自由な感じ方で楽しんでもらいたい。ぜひ感想を聞かせてほしい」と呼び掛ける。
そのほか、文庫部門の1位は「逆襲、にっぽんの明るい奥さま」(夏目鈴子著、小学館)、両部門の郷土賞は「『私』を受け容(い)れて生きる」(末盛千枝子著、新潮社)、「みちのく忠臣蔵」(梶よう子著、文藝春秋)の2冊が選ばれた。「さわベス2017」全ランキングは同店ホームページで公開している。