「さわや書店フェザン店」(盛岡市駅前通)が12月19日、タイトルと著者名を隠して販売していた「文庫X」の正体を明かした。
「文庫X」は全体をカバーとビニールで包み、内容が分からないように販売していた文庫本。同店がツイッターなどで紹介したところ話題を呼び、現在は全国600店舗以上の書店で販売している。販売開始から解禁時刻までの同店の販売数は5034冊、全国での発行部数は18万部を超えるなど異例の売れ行きを見せた。
明らかとなった「文庫X」の正体は、ジャーナリストの清水潔さんによるノンフィクション作品「殺人犯はそこにいる」(新潮文庫)。同作品は1979(昭和54)年から1996年に起きた「北関東連続幼女誘拐殺人事件」を清水さんが取材し、1年半かけてまとめたもの。事件の一つである「足利事件」の冤罪(えんざい)についてのほか、真犯人がまだ逮捕されていないことなどを強く訴える内容となっている。
清水さんは「最初に文庫Xの話を聞いた時はあまり実感がなく、こんなに大きなうねりを生むとは思っていなかった。盛岡に訪れる機会があり、店頭に並んでいるのを見て面白い手法だと思い、何よりもカバーに書かれた熱のある感想に心を打たれた。今日を迎えるまで自分が著者であるのを隠し、知らないふりをするのが大変だった」と話す。
当日は解禁と同時に、文庫Xを取り扱う全国の書店でもカバーを外し、本来のタイトルを前面に出した状態で販売を開始。これまで正体を秘密にし続けてきた読者らがツイッターを通じて一斉に感想を投稿した。同日には「文庫X」発案者の長江貴士さんと清水さんによる対談が行われ、会場には120人以上の読者が集まった。
トークショーで長江さんは「ここまで盛り上がったのも、企画に賛同して秘密にし続けてくれた読者の皆さんがいたからこそ。まさに今『共犯者はここにいる』という状況がうれしい。今日が文庫Xの終わりではなく、新しいスタートになる」、清水さんは「本の内容が重いテーマなので、長江さんがカバーに書いた文章の通り、自分でも『どう勧めていいかわからない』本だった。たくさんの人に読んでもらいたいと思いを込めた1冊なので、文庫Xとして多くの人が読んでくれて本当にうれしかった」と話す。