盛岡在住の作家・くどうれいんさんのエッセー集「虎のたましい人魚の涙」が9月22日、講談社から発売された。
同作品は月刊文芸誌「群像」で連載中の「日日是目分量」22回分に書き下ろしを加えたもの。くどうさんはこれまで、俳句と食にまつわるエッセーをまとめた「わたしを空腹にしないほうがいい」と、友人についてのエピソードを中心とした「うたうおばけ」の2冊のエッセー集を出している。今回は長期間の連載となる予定があったため、テーマを限定せずに自由な話題で書くことを決め、主に日常で起きたことや過去のエピソードを題材にしている。
「連載当初は、あの群像に連載するんだぞと気合が入っていて、一回一回が全力投球だった」とくどうさん。「最初の頃は、ここぞという話題を選んで執筆していたが、続いていくうちにこれが毎月続くと息切れすると思い始めて、日々の出来事を書くようになった。表題にもなっている『虎のたましい人魚の涙』を書いたあたりに、毎月連載での泳ぎ方や息継ぎの仕方がだんだんつかめてきた感じだった」と振り返る。
収録された22本のエッセーは約2年分。会社員として働きながら作家活動をしていた時、初めて書いた小説が芥川賞候補にノミネートされた時、会社を退社して執筆に専念し始めた時など、生活の変化や作家としての変化の時期に書かれたもの多い。書籍に向けて作品を読み直し、くどうさんは「気持ちの揺れ動きが文章に出ていて、濃い2年間を過ごしたなと実感した」という。
帯には上白石萌音さんと杉咲花さんがコメントを寄せる。2人がくどうさんの本を紹介したことがきっかけになっている。くどうさんは「エッセーは個人的な記録。この本は限りなく部屋着で地声の私に近い、普段のことを書いたので世に出るのは結構勇気がいる。2人の言葉が載っていると、この本が遠くに届いてもよい、書店に並んでもよいと強く背中を押してもらった気持ちになる」と話す。
歌集や小説、児童書、絵本と幅広いジャンルで執筆を続けるくどうさん。「初めて本を作った時もエッセー集だったので、なんだか2周目に入ったような気持ち。決まった分量を決まった期間に書き上げる連載は、他のジャンルを書くための筋トレにもなっているし、作風を探るための冒険もできた」と話す。「2年間のことを飾らずにぎゅっと詰めた一冊。いつも応援してくれる皆さんに聞いてもらいたい話を書いたので、本を開いて、私とおしゃべりしてもらいたい」と呼びかける。
四六判、192ページ。価格は1,540円。