花巻市の「萬鉄五郎記念美術館」が現在、企画展「CAFE モンタン展」を開催している。
1960年代に盛岡市・大通に開店した画廊スナック「CAFE モンタン」の初代マスター・小瀬川了平さんと、「モンタン」に集った芸術家や詩人、文化人たちを紹介する同展。現在の「モンタン」といえば、ピリ辛のトマトスープスパゲティ「ア・ラ・モンタン」が名物メニューとして知られ、市民から親しまれている。一方、開店当時の「モンタン」は、最先端の文化芸術、音楽、味覚が集まる場所として多くの芸術家が通っていたという。
「萬鉄五郎記念美術館」での企画展は、小瀬川さんが花巻出身という理由がある。小瀬川さんは花巻・台温泉で旅館を営む家に生まれ、1956(昭和31)年に盛岡・大通にロシア民謡を楽しめる酒場「どん底」を開店。1階から3階までの吹き抜けだった「どん底」の1階部分を改装して開いたのが喫茶店「モンタン」だった。
1959(昭和34)年の開業以来、「モンタン」には地元の若手芸術家や詩人、中央の美術評論家やジャズ評論家が定期的に集まり、店内では「モンタン・コンテンポラリーシリーズ」と題した芸術家の展覧会や、レコードコンサートが開かれるなど、美術・音楽・文芸といった芸術文化のコミュニティーが形成されていった。1963(昭和38)年には、45歳以下の美術家を対象にした現代美術コンクール「M(モンタン)賞」を制定。M賞は受賞者に東京・銀座の画廊での個展を約束するもので、全国的にも例のない画期的なコンクールだったという。
担当学芸員の平澤広さんは「『盛岡でコンサートがあるとその出演者が終演後にモンタンへ行くのでは?』と思った人々がモンタンへ足を運ぶこともあったそう。それだけ文化人が集まっていた店。モンタンに行くことが一種のステータスになっていたとも考えられる」と話す。
企画展では、モンタンのマスター「モンマス」と呼ばれた小瀬川さんと、小瀬川さんの元に集った芸術家の足跡をたどり、同店にゆかりのある芸術家たちの作品や、開店当時の写真、レコードジャケット、新聞広告など136点を展示。「モンタン」と芸術家たちを結ぶキーパーソンともいえる美術家・村上善男さんや、同店でバーテンダーとして働いていた詩人・中村俊亮さんの作品も並ぶ。「モンタン」の2階に設置していたステレオ一式の値段を当てると車が当たるという懸賞の新聞広告は、当時の景気の良さが感じられる。
「どん底」時代や開業当時の「モンタン」についての写真や情報は少なく、同館では店に関する写真やエピソード、小瀬川さんについてのエピソードも集めている。
同展には盛岡からの来場者も多く、「せっかくなので期間を延長してほしい」という声もある。平澤さんは「モンタンという一つの店に、これだけの歴史があったことが面白い。この機会に当時の雰囲気を楽しんで」と呼び掛ける。
開館時間は8時30分~17時(入館は16時30分まで)。月曜休館。入館料は一般=400円、高校・大学・専門学生=250円、小中学生=150円。2月23日まで。