10月8日から10日にかけて、全国から集まった作家らが作品を展示販売する「北のクラフトフェア」が初めて開かれ、メイン会場の岩手公園(盛岡城跡公園)には県内外から多くの人が盛岡を訪れました。東京でラジオパーソナリティーとして活躍するクリス智子さんもその一人。8日には会場内で行われたラジオの公開生放送のゲストとして出演し、盛岡で暮らす人や出展者と言葉を交わしました。今回が2度目の盛岡来訪となるクリスさんから見た盛岡の街とクラフトについて聞きました。
-クリスさんがナビゲーターを務めるFMラジオ局・J-WAVEの番組「GOOD NEIGHBORS」(盛岡地域ではラヂオ・もりおかで放送中)では度々、盛岡にゆかりがある人がゲストで登場していて、一市民としてもうれしいです。盛岡との出合いは何だったんでしょうか。
知人から「盛岡にクリスさんと合いそうな店があるよ」と紹介してもらったのがきっかけでした。その店が「BOOKNERD(ブックナード)」(※)。店主の早坂大輔さんと知り合い、早坂さんにも番組に出てもらいました。
※BOOKNERD=市内紺屋町にあるブックショップ。店主がセレクトした新刊本・古書・洋書・雑貨などを取り扱う。
-先日(9月29日)は、盛岡在住の作家・くどうれいんさんもゲストで登場していましたね。
くどうさんとの出会いも早坂さんがきっかけです。「BOOKNERDから話題になった作家さんがいます」ということで紹介してもらいました。
-2020年の夏に初めて盛岡にいらっしゃったとのことですが、それも早坂さんがきっかけでしょうか?
それもありますが、私の周りに「盛岡が好きです」「盛岡は良い街だよ」と言う人がたくさんいるんです。皆さんがそういうなら、ぜひ行ってみたいなと前々から思っていました。盛岡に限らず、旅先を決めるきっかけが「人から聞いて」というのはよくあります。人と話すとその土地のことが見えてきて、新しい人との出会いもあるので楽しいですよ。
-今回が2度目の盛岡ですね。秋の盛岡はいかがですか?
北の土地の冷えた空気が好きなんです。とっても良い季節ですね。紅葉にはまだ少し早いけど、木の葉っぱの色づき方が不思議だなと思って見ていて、葉っぱの先から、こんな風に色が付くんだ!面白い!と驚きました。
-盛岡の街にはどんなイメージがありますか?
文学的なイメージかな。街のあちこちで物語が始まりそうな雰囲気があります。初めて来たときも物語の中に迷い込むような感じで散策を楽しみました。雄大な街でもありますよね。自然が豊かで、大きな川が流れていて、ゆったりしていて。この環境の中で育ったもの、生まれたものも好きだと感じています。
-「北のクラフトフェア」も盛岡で今年生まれたイベントです。
今回が初めてとは思えないにぎわいですね。サイズ感もちょうど良くて、会場の広場もすてき。大きな木の元に集まって、皆さんが生き生きしているように見えます。作る人と買う人、使う人が同じ場所に立って、お互いに言葉を交わし合うのがいかに良いことなのかを改めて感じました。
-クラフトといえば、クリスさんのご自宅は古い家をリノベーションされていますよね。心地の良い家づくりや居場所づくりも、ある種の「クラフト」ではないでしょうか?
そうですね。私自身、ものづくりが好きで、居場所もクラフトしているというか…常に作りかけの場所が家の中にある方が良いなと思っています。何か作ることは「常に途中経過にある」ということ。その途中経過の状態のものがあるといつでも手を動かすことができるし、何だか落ち着くんです。作る、完成させる、ということよりも、作っている時間に意味や価値があるんじゃないかな、と感じています。
-クリスさんにとって「ものづくり」「クラフト」はどのようなものでしょうか。
私にとっては思考の時間であり、エネルギーを発散させる時間です。でも、クラフトは誰もがすべきで、誰もがしていることじゃないかな? 何か作っているとたくさん考えるので、エネルギーを使うし、考えることでものづくりの難しさに気付けます。ものを使う側としても、作ること、クラフトすることには意味があると思います。
-家づくりつながりでの質問ですが、クリスさんは多くの引っ越しや、いろいろな土地での暮らしを経験してらっしゃいますね。住みやすい街の条件って何かありますか?
風景と人が良い場所は住みよい街だなあ、と感じています。その土地の自然と住む人には相互関係があると思っていて。これまで住んできた場所も、実際にその周りを歩いてみて決めることが多かったです。例えば、犬の散歩をしている時に良いマンションを見つけて、すぐに空いているかどうかを調べて引っ越したこともあります(笑)
-えっ、そんな突然に決まることがあるのですか?
そうなんです(笑) えいって感じで引っ越しちゃって…。自分で言うのもなんですが、ほんとびっくりですよね(笑) きっと盛岡で暮らすとなっても街の中をあちこち歩き回って住む場所を探すと思います。あとは窓が好きなので、窓から見える好きな景色を探して回りたいですね。
-盛岡はコーヒー店やレコードショップが多いので「コーヒーの街」「レコードの街」と呼ばれたり、映画館通りがあるので「映画の街」と呼ばれたりしているのですが、クリスさんが盛岡に「○○の街」と付けるとしたら、どうでしょうか。
とても難しい質問ですね、何せ2回しか来ていなくて、まだ盛岡について知らないことがいっぱいなので…。あ、「写真館の建物がある街」はどうですか?
-写真館ですか?
初めて来たときに、もう営業していない古い写真館の建物が多いなと思ったんです。ここは違いますか?(中央通にある「ライト写真館」の写真を見せてくれるクリスさん)
-ああ、「ライト写真館」。確かにこの写真館は残念ながらもうやっていません。
やっぱり。使われていないのに、建物はそのまま残っているというのが何だか面白くて。役目が終わっていても、建物が街角に残っていることはとても豊かなことだと思います。誰かの思い出や記憶の気配があちこちにあって、建物の形で残っている。終わったものや閉じたものにしか出せないものがあって、すごくメッセージ性を感じます。この写真館のほかにも、盛岡は古い建物がそのまま形を残していて、この建物も良いなと思って写真を撮りました(「紺屋町番屋」の写真を見せてくれるクリスさん)。盛岡は「建築が美しい街」っていうのも良いかも。
-こちらは「紺屋町番屋」ですね。この会場(岩手公園)の近くです。今は改修されて、もっときれいな外観になっています。
そうなんですね。古い場所を急いで新しくするのではなくて、形を残したままにするのは良いですよね。歴史のあるものを生かして新しいものを作る。そういった点では、盛岡は「新しい文化がある街」「古いと新しいが共にある街」だと思います。「北のクラフトフェア」もその一つじゃないですか?
-では「北のクラフトフェア」の新しいと古いが共にある部分は、どんなところだと思いますか?
例えば、会場が城跡公園なところ。歴史があるところを使って、新しいイベントが生まれていますよね。古い場所を生かして、新しいものを作るという点では、この場所に整備されるという「ホホホの森」(※)も同じだと思います。来年も「北のクラフトフェア」があったら、また盛岡に来ます。私が主催しているものではないですが、長く続くイベントになっていけばいいな。
※ホホホの森=岩手公園(盛岡城跡公園)芝生広場で進められている、民間の力を借りて都市公園を整備する「公募設置管理制度(Park-PFI)」を活用した整備事業で、開設が予定されている複合施設の名称。「ホホホの森」の開設を応援する市民有志が「北のクラフトフェア」の実行委員会を立ち上げた。
-この先、「北のクラフトフェア」はどんなイベントになっていくと思いますか。
作家さんやフェアに来る人にとって、「リズム」や「接点」になるフェアになると思います。「北クラがあるからこういうスケジュールで作ろう」とか、「こういう予定を立てて盛岡に行こう」とか。北のクラフトに合わせてリズムができていくんじゃないかな。クラフトという形でつながっていくものはたくさんあって、例えば「誰が作っているんだろう?」「どこで作っているんだろう?」というつながりもそうですし、日常的に使うことで生活でのつながりが生まれて、そういうつながりが集まる「接点」になっていくように感じます。
-また盛岡に来てくださるということですが、次はどんな出会いに期待したいですか?
盛岡を含めて、日本の北の地域は大人になってから興味を持った場所が多くて、まだ自分が知らない新しいことがある場所なんです。新しいものを求めて北に行く、新しい何かとの出会いが楽しみです。あと、寒い地域には寒い時に行きたいので、雪のことを調べて「白い景色」も期待しています。盛岡に詳しい人や住んでいた人からも「盛岡の冬は寒さが厳しい」と聞くので、どんなもんなんだろう? と今から興味津々なんです(笑)