-ようこそ、盛岡へ。お二人は盛岡に来るのは初めてですか?
飯塚 僕は3回目です。また来られてうれしい。こういうこと言うとうそくさいじゃないですか(笑)。うそくさいけど本当の話で、今回の映画祭での上映が決まった時、盛岡ならどうにかして行きたいと思っていました。
伊藤 私は初めての盛岡です。駅に着いたとき、飯塚さんと「空気がおいしいね」という話をしました。本当にきれいで、何だか澄んでいる感じがします。
-今回の映画「ブルーハーツが聴こえる」と、お二人が携わる「ハンマー(48億のブルース)」についておうかがいします。数あるブルーハーツの曲から「ハンマー(48億のブルース)」を選んだ理由は何でしょう?
飯塚 まず、僕はブルーハーツが大好きなんです。彼らの曲の中にはとても有名なものもあって、いろんなタイアップが付いて今でもCMで流れている曲もある。だから、あまり知られていない曲を選ぼうと思ったんです。誰でも知っているものだけではなく「他にも良い曲がたくさんある」って伝える意味でもこの曲を選びました。
-「ブルーハーツ大好き」という飯塚監督に対して、伊藤さんはいわゆる「ブルーハーツ世代」よりかなり若い年代かと思いますが…。
伊藤 世代は少し違うかもしれませんが私もブルーハーツが大好きです。CMやテレビドラマのタイアップで耳にしたのが好きになるきっかけでした。曲だと「夢」や「人にやさしく」には思い入れがあります。実は「ハンマー」はあまり聞いたことがなくて(笑)。この作品に出演するにことが決まってから聴いてみたら、とてもいい曲だと感じました。
-「ハンマー(48億のブルース)」のストーリーはどのように生まれたのでしょうか?
飯塚 歌詞には「ハンマーが振り下ろされる」というフレーズが何度も出てきますよね。だからやっぱりハンマーを振り下ろさないと終われないなと(笑)。それで、じゃあ何に対して振り下ろそうか?と考えました。
-ズバリ、見どころはどこでしょう?
飯塚 やっぱり俳優の皆さんですよね。今回の作品では演劇的な手法で演出している場面が多くて、例えば本には「適切な表情」としか書いていないところもあるんです。でも、こういう要求に応えられる人ってなかなかいない。演劇は稽古があるから演技の確認ができるけど、映画はその場で動きを付けてせりふを話さなきゃいけない。しかも次々とシーンが変わっていく。その中でどれだけ動いて話すかが重要。それができる俳優たちがいろいろと面白いことをしているので、彼らが一番の見どころです。
伊藤 ズバリ全部と言いたいところですが(笑)。作品自体が会話劇でテンポよく進んでいくところや、画面の端や後ろの方でやっているちょっとした動きとか、もう全ての場面が面白く仕上がっています。動きと言葉が合わさって、見ていて気持ちいい映画になっていると思います。
-伊藤さんが言う「会話劇」の通り、物語が会話を中心に進んでいきますよね。中でも伊藤さん演じる女子高生の愛川奏は常にしゃべり続ける印象的なキャラクターでしたね。
伊藤 実は前に飯塚組の作品に出た時もよくしゃべる役でした。今回はそれ以上に面白みがあって、なぜか怒りの矛先が向いてしまうような、憎めないところがあるキャラクターだなと思いました。
-尾野真千子さん演じる主人公・一希が奏に迫るシーンが度々ありましたね。
伊藤 そうですね(笑)。でも、映画を見ていると「確かにこいつに矛先向くよなあ」って思ってしまうんです。そういうところに「愛川奏」という人物のかわいらしさが感じられます。
-撮影中のエピソードや思い出についてお聞かせください。
飯塚 実は撮影したのが2年も前の話なんですよね(笑)。だから、これといったものが思い出せなくて…。劇中にハロウィーンの仮装をしてみんなで橋を渡るシーンがあるのですが、撮影したのがちょうどこの時期(11月)で、川辺だったので、ものすごく寒くて…。撮影中は楽しそうに演じていますが、カットがかかった瞬間に暖かいところに走って行ったのをよく覚えています。
伊藤 私が特に印象に残っているのは、「ハンマー(48億のブルース)」を演奏するシーンです。ボーカルを担当した角田晃広さんのパフォーマンスがすごくて。私もかなり練習して臨んだのですが、「もうだめだ」って思ってしまって…。その時に前で歌っている角田さんを見たら「もっと頑張らなきゃ」と勇気づけられました。その後、飯塚さんが仕上がりを確認している時に、崩れ落ちるくらい笑っていたんですよ。飯塚さんが今まで聞いたことがないくらい大きな声で笑っていたのが印象に残っています。
-今の話にもありましたが、「ハンマー」には演奏シーンがあるんですよね。角田さんのパフォーマンスは確かに素晴らしかったです。
伊藤 本当に「これは本物だ」と思いました。
飯塚 いつか首が取れてしまうんじゃないかって思うくらいのパフォーマンスでした(笑)。ぜひ劇場で見ていただきたいです。
-伊藤さんはドラムを担当していますが、楽器の演奏経験はありましたか?
伊藤 ピアノやギターをやっていたこともありましたが、飽きっぽくて長続きしなかったんです。ドラムに触れたのは今回が初めてで、自分にかなり合っているなと思って、すごく楽しかったです。ただたたくだけでは面白みもなく、愛川奏らしさもないので、思い切り首とか振りながらオーバーに演じるのを心掛けましたが、撮影中はただただ必死でした。ドラムは続けたいなという気持ちも少しあります。
-音楽の話に戻ってきたところで飯塚監督にお聞きします。音楽と映画の関係性はどのようなものだとお考えでしょうか?
飯塚 難問ですね…。基本的には音楽がなくても見られるものを撮影しなければと思っています。その映像が音楽とつながりを持つからこそ一層良いと思ってもらえる風にしないと、音楽は役に立たない。例えば音楽が先行して「これは泣かせようとしているな」と思わせるような演出は、正直格好悪いと考えています。だからこそ、劇中で使う音楽は絞るようにしています。
-今回はブルーハーツの曲を題材にしていますが、完成された曲から物語を作る難しさもありましたか?
飯塚 あまりなかったです。ただ、どう聴かせるかはすごく考えました。曲のかけ方を間違えるととんでもなくダサくなると思うんですよ。ブルーハーツは曲自体のインパクトが強すぎて、劇中で使うには難しいバンド。好きなバンドだからこそ、そこのバランスがおかしくならないように気を使いました。
-では、伊藤さんにとって音楽はどのようなものですか?
伊藤 今の自分が分かるものですね。気分だったり、状態だったり。音楽に限った話ではなくて、洋服や食べ物も決まった好みがなくて、気分によって左右されることが多くあります。聴く音楽のジャンルも広くて、はやりのJ-POPから歌謡曲まで聴くのでプレイリストの中身が結構ランダムなんです。曲が流れても「これ違うな」って感じたり、逆に何度も聴きたいと思うものもあったりして、そういう時に「あ、今はこれを聴きたい感情なのか」って自分を知るタイミングや向き合う時間を作ってくれるものだと感じています。
-今回は「映画館通り」があり「映画の街」とも呼ばれる盛岡での上映ですが、映画を作る側の飯塚さんにとって映画館ってどんな場所でしょうか?
飯塚 特別な空間だと常々思っています。お金を払って現実を遮断できる場所だと思っているので、本当に特別ですよね。テレビとは違って、お金を頂いて何かを見せるっていう責任も感じます。お菓子を食べて、コーラとかを飲みながら笑って楽しめる映画が本当にいい映画だとも思います。あと、あまり関係ありませんが、昔、映画のチラシをラミネートしただけのものを下敷きとして売っていて、「どこが下敷きなんだ」って思っていました(笑)。沙莉はもうシネコン世代だもんね。
伊藤 そうですね。でも、私にとっての映画館も特別な場所です。
-映画はよく見に行きますか?
伊藤 はい。映画館は癒やし空間で、疲れたなと思った時に映画館に行きたくなります。もちろん元気な時にも行きますけど。あとは、もう少し正しく映画を見てほしいなと思うこともあります。例えば上映中のマナーは守ってほしいとか。それから映画は映画館で見てほしいです。
飯塚 そうですね。作り手はいつも映画館で見てもらうために頑張っているので。
伊藤 自分たちも映画館で見てほしいと思えるものを提供したいし、映画から何かを得ることもできるので、そういう楽しみを、演技を通してもっと伝えていきたいです。
-最後に、お二人にとって「映画」とは?
飯塚 最後の最後で難問ですね。自分の人生の真ん中に置いておきたいもの。子どもとか家族のこともありますが、仕事という中で真ん中に置いておきたいなと思っています。
伊藤 自分の仕事について迷っていたことがあって、その時に全国で公開する映画のエンドロールに初めて自分の名前が出た時に、「やっぱり女優を続けたい」って思ったんです。そういう経験もあって、映画とはずっと関わっていられたらいいなって思います。これからの映画でも、女優としての伊藤沙莉のいろいろな部分を見てもらえたらうれしいです。
-ありがとうございました。
「ザ・ブルーハーツ30周年企画映画『ブルーハーツが聴こえる』を劇場公開したい!」
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