漁船の船体に広告を掲載することで船を失った漁業者に資金援助を行う「ADBOATプロジェクト」による1隻目の船が11月15日、大船渡の小石浜漁港に浮かんだ。
同プロジェクトを手掛けるのは「ADBOAT JAPAN」(盛岡市大通、TEL 019-622-4326)。今年9月に盛岡で靴店や広告制作業などの経営者らが出資し、三陸の漁業を支援する単一事業会社として立ち上げた。
事業の中身は、津波に流されるなど船を失った漁師に、漁船や漁具の購入費を船体に掲出する広告費として集めるもの。支援した企業は、決まった目的に直接支援できるほか、支援金を広告費として経費計上できることから経理処理など手間が簡素化できるのが特徴で、これまでに衣料や外食、食品加工、リサイクル、通販など幅広い業種から引き合いが来ているという。
同プロジェクトとして初の事例となる船は、綾里漁協所属の漁師、佐々(ささ)正人さんが所有する「聖徳丸」で、長さ10メートル、総トン数3.2トンの中型漁船。津波で沖に流されひっくり返っていたところをサルベージされ、1,600万円ほどかけてエンジンや無線機類を入れ替えるなどして修理した。今後は震災前に行っていたホタテの養殖を中心に遊漁船としても活用するという。
今回、佐々さんの漁船を支援するのは首都圏でウエデイング事業を展開する「C・B・H」(千葉県印西市)。船体には「THE CHELSEA COURT」「VILLA de ESPOIR」などの直営店名を出稿した。出稿後も同漁港から直接食材を買い付ける計画もあるという。
「広告を貼ったからといって作業に差し支えることはないし、ありがたい支援。支援してくれる企業は横文字でよくわからないが、会って直接お礼をいいたい」と佐々さん。
ADBOATの広報担当者は「船体費は中型の新造船で千万単位、中古船や今回のような修理でも費用は数百万から1,000万円を超えることもある。行政の支援も手厚いが、情報が錯綜(さくそう)した上に漁師の持ち出しは百万円単位になるので、資金的な支援はまだまだ足りない」と訴える。「これはあくまでも支援のあり方の一つ。広告効果は期待しないでほしい」とも。
漁船1隻に対する広告費は中型船が概ね200万円、地元でサッパ船と言われる船外機付きの小型船で100万円ほどで、広告制作費と事業経費を除いたおよそ半額が漁師に渡る仕組み(大型漁船は扱わない)。1船1企業でも複数の企業による連合での出稿も受け付けるほか、一般個人を対象にした支援メニューも用意する。